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北島和男さん(伝統的工芸品 下総鋏)

プロのための道具づくりは鍛冶冥利。一生追いかけ、本物を残していきます。

鉄を叩いて伸ばす北島さん。

鉄を叩いて伸ばす北島さん。金槌、金引き(鉄を伸ばす台)、鳥口など道具は全て手づくり。先代から受け継がれた道具も使われている。

 日本の羅紗鋏は、明治の廃刀令の時に刀鍛冶の吉田弥十郎(1861~1901)がメリケン(アメリカ)型の鋏を改良し江戸鋏として製造したのが始まり。技は弟子に伝承され、現在の主流は長太郎系と兼吉系に二分される。兼吉系の最後の総火づくり継承者、北島和男さんを鍛冶の音響く松戸市の工房に訪ねました。

北島 和男さん

北島 和男さん
昭和13年生まれ。兼吉の弟子から総火づくりの技を習得した父「平三郎」を継ぐ二代目鋏鍛冶。17歳で父に師事し、26歳の時に父が他界したことから、大黒柱として仕事に打ち込む。平成4年に千葉県指定伝統的工芸品「下総鋏」製作者に認定された。平成10年には県の卓越技能章(現代の名工)を授章。住所/松戸市南花島363

 
 

職人として江戸鋏の流れを知るべく、その時代の鋏を再現。

職人として江戸鋏の流れを知るべく、その時代の鋏を再現。上は、今わずかに残っているメリケン鋏を見てつくったもの。下指用に突起が付いており、下に置いて使われた。長さ33センチあり、大きくて重く日本人には扱いにくいものだった。中央はパイオニア吉田弥十郎がつくった改良型を模したもので、羅紗鋏の原形となるもの。下は現代北島さんが平三郎の銘でつくっている鋏。

左が材料の鉄片。親指用と下指用の2本が同時進行でつくられる。

左が材料の鉄片。親指用と下指用の2本が同時進行でつくられる。
松戸の伝統工芸品
  • ◆下総打刃物/天城忠治さん 故実兄健治さんの銘「豊次郎」を受け継ぐ。
  • ◆下総鋏/野﨑吉之助さん・吉之さん 吉之さんは、銘「光喜之」を持つ父吉之助さんのもとで修業した5代目。
  • ◆宇梶國雄さん 北島さんと同じ吉田弥十郎の流れをくみ、銘は二代目「常正」。
  • ◆べっ甲細工/矢吹覚さん 帯留めや櫛ほか最近はアクセサリーも制作。
  • ◆友禅染/中澤英高さん 伝承の技法を受け継ぎながら創作活動を展開。
  • ◆手描友禅/篠原清治さん
  • ◆象牙彫/天野康郎さん、荒川啓さん

火と鉄と技の共演

鳥口を使い、4本の指が入る輪をつくる

鳥口を使い、4本の指が入る輪をつくる

 「こんなこと今の人はできないから、もう、俺が最後じゃないのかな」と話す北島和夫さん。仕事場のコークスが燃える火床(ほど)の前に腰を下ろした。取り出したのは、幅2センチ長さ16センチ厚さ6ミリほどの鉄片、これがラシャ鋏(以下鋏と略す)の原形。
 炎の色を見ながら鉄片を真っ赤に焼き、金槌を振り下ろす。鉄は火花を放ち、黒い鉄幕がそぎ落とされ、曲げられ、伸ばされ、輪がつくられる。物差しや型は一切使わない。
 「寸法や形は見ればわかるし、体が覚えてるからね。修業時代はまず下指用からつくり方を習うが、教えてもらってできるもんじゃない。何度も失敗してひたすら身につけていくしかない。理屈じゃないから」
 総火づくりの工程は200にのぼると言われる。刃の部分に鋼を付け、穂先を形成し、親指用と下指用のそれぞれの刃に合わせ目の段をつける。さらに焼きや研磨などの工程を経て仕上げる。鋼付けは刀鍛冶技法が今に息づく日本独特の製法だ。1日に出来るのは1、2丁程度。完成した鋏は意外にも軽く、指を入れると輪は薄く優しく馴染み、なんだか手にするのがうれしくなってくる。
 形や切れ味に職人の個性が光るのも手づくりならでは。
 「先日、研ぎ直しを依頼された鋏を見て驚いたことに、下指用は父親の作で、親指用は師匠の岩上民太郎氏の作だったんです。すぐにわかりましたよ。懐かしかったですね」
 ところで、北島さんは実に多趣味。彫刻もすれば絵も描く。横笛も吹けば三味線、小唄も楽しむ。若いころは、暇があれば博物館や美術館にも通った。鋏職人として、道具から生み出される物に興味があり、「特に彫刻を見るのが好きだった」と振り返る。「どんな風に作るのか、どんな小刀を使っているのかと、実際に彫ってみたもんです」

 

注文厳しいプロ用

 旺盛な好奇心は鋏づくりにとどまらない。美術大学から頼まれたエッジングの道具やパレットナイフ、版画家の彫刻刀、書道家の篆刻刀なども制作する。プロが使うので注文も厳しいが、それだけにやりがいがある。
 有価証券の原版制作用のエッジング刀の注文には、細い針金のような鋼を使用。
 「鋼は焼きすぎるとすぐ割れるので細かなものほど難しい。総火づくりの基礎があるからできる」「鋏づくりは伝承の技ではあるが、鋼など新たな材料の進歩もあり生涯追い続けていく」と、ますます意欲に燃える北島さんである。
 「千葉県立房総の村」(印旛郡栄町竜角寺1028)では、北島さん指導による彫刻刀づくり体験を11月11日から13日に開催。体験者がいない場合は鋏づくりの実演が見られる。体験についての問い合わせは電話0476(95)3333へ